犬を飼い始めるときに、ペットショップやブリーダーからワクチンの接種を勧められると思う。
ワクチンは必ず接種した方がいい。
接種しないと、やばい病気にかかって最悪の場合死んでしまうこともある。
しかし、ワクチンの意味がわからないと、わざわざ動物病院に行ってワクチンを打つ気にもならないだろう。
そこで今回はワクチンの重要性を、狂犬病ワクチンと混合ワクチンの2つの観点から現役の獣医師が解説する。
狂犬病ワクチン

狂犬病ワクチンは文字通り狂犬病を予防するためのものだ。
このワクチンに限っては、狂犬病予防方により年1回の接種が義務付けられている。
それでは、どうして狂犬病ワクチンは法律で義務付けられるほど重要なのだろうか?
狂犬病のやばさ
狂犬病は狂犬病ウイルスによって引き起こされる病気で、犬だけでなく人間を含むほとんどの哺乳類が感染し、最終的には死に至るやばすぎる病気だ。
犬の狂犬病
感染動物に噛まれることにより感染する。
感染後、長い潜伏期間を経て発症し、発症した場合の致死率は100%だ。
主な症状は神経症状だ。
発症すると攻撃性が増して周囲の動物に噛みつき、感染が広がってしまう。
人の狂犬病
人の場合も感染動物に噛まれることで感染する。
動物と同様に、感染後、長い潜伏期間を経て発症し、発症した場合の致死率はほぼ100%だ。
症状は噛まれた部分の知覚過敏や風邪症状から始まり、最終的には神経症状を起こす。
神経症状としては、運動障害、嚥下困難、幻覚、痙攣などが挙げられる。
水を恐れるような症状を示すことから恐水病とも呼ばれている。
狂犬病の予防
人と犬の狂犬病を予防するには、犬の狂犬病ワクチンの接種が一番大切だ。
犬の健康を守るだけでなく、犬から人間への感染を防ぐためにも必ず毎年接種して欲しい。
また、人間の場合は、発症前であれば長い潜伏期間の間に5〜6回ワクチンを接種することで発症を予防することが可能だ(これを暴露後免疫という)。
さらに、人間でも狂犬病に感染する可能性の高い地域へ渡航する場合は予防的にワクチンを接種することが必要だ。
混合ワクチン

ここからは混合ワクチンとは何なのかを概説する。
混合ワクチンに含まれているワクチンには大きく分けて、コアワクチンとノンコアワクチンがある。
コアワクチン
コアワクチンとは全ての犬に接種が勧められているワクチンで、感染してしまうと非常に重篤な症状となってしまう病気を予防するためのものだ。
混合ワクチンに含まれるコアワクチンで予防できる病気には下の4種類がある。
- 犬ジステンパー
- 犬伝染性肝炎
- 犬伝染性喉頭気管炎
- 犬パルボウイルス感染症
それぞれの病気について下記で詳しく見ていく。
犬ジステンパー
犬ジステンパーウイルスの感染によって引き起こされる病気。
呼吸器症状や消化器症状、神経症状を引き起こし、致死率は高い。
ワクチンを打っていない若齢犬では、神経症状を示した場合の致死率は90%とも言われている。
感染経路は、感染した犬との接触や分泌物、排出物との接触、飛沫の吸入など。
犬伝染性肝炎
犬アデノウイルス1型の感染によって引き起こされる病気。
症状としては発熱や鼻汁、腹痛、神経症状などが挙げられる。
感染経路は感染犬の尿、糞便、唾液など。
犬伝染性喉頭気管炎
犬アデノウイルス2型の感染によって引き起こされる病気。
症状としては短く乾いた咳が特徴的。
混合感染などにより重篤化した場合は肺炎を起こすこともある。
感染経路は感染犬との接触や飛沫による経口・経鼻感染。
犬パルボウイルス感染症
犬パルボウイルス2型感染により引き起こされる病気。
症状としては、嘔吐や下痢、血便などの消化器症状や白血球減少などがある。
妊娠犬が感染すると流産や死産、新生犬の全身感染や心筋炎による死亡の原因となる。
感染経路は主に感染犬の排泄物による経口・経鼻感染。
ノンコアワクチン
ノンコアワクチンとは、接種は必須ではないが、飼育環境によっては接種した方がいいワクチンだ。
混合ワクチンに含まれるノンコアワクチンで予防できる病気には下の3種類がある。
- 犬パラインフルエンザ
- 犬コロナウイルス感染症
- 犬レプトスピラ症
これらの病気について下記で詳しく解説する。
犬パラインフルエンザ
犬パラインフルエンザウイルスの感染によって引き起こされる病気。
症状は発熱、咳、くしゃみ、鼻水などで、いわゆるケンネルコフと呼ばれる症状を引き起こす。
集団飼育しているブリーディング施設などで流行することが多い。
感染経路は感染犬との接触や飛沫による。
この病気は子犬に多く、よく病院でも目にする。
この病気は治療に長い期間を要し、重篤化することもあるため注意が必要だ。
犬コロナウイルス感染症
犬コロナウイルスの感染によって引き起こされる病気。
症状は嘔吐と下痢で、幼犬では症状が重篤化することが多い。
感染経路は糞便による経口感染だ。
犬レプトスピラ症
レプトスピラという細菌の感染による病気。
症状は嘔吐、脱水、黄疸、腎炎、などで数日で発症から死亡することもある。
感染経路は感染動物の尿で汚染された水や土壌を介して、皮膚や口、目などのキズから。
ネズミなどの齧歯類はレプトスピラに感染していることが多く、生涯にわたって菌を排出し続ける。
ネズミが多い田舎では予防が勧められる。
混合ワクチンの種類
混合ワクチンには2種から10種まである。
何種のワクチンを接種するのが一番いいのだろうか?
ぼくの場合は基本的に6種か10種の接種をすすめている。
6種混合ワクチン
6種混合ワクチンで予防できる病気は下記の6種類だ。
- 犬ジステンパー
- 犬伝染性肝炎
- 犬伝染性喉頭気管炎
- 犬パルボウイルス感染症
- 犬パラインフルエンザ
- 犬コロナウイルス感染症
表を見ればわかるように、コアワクチンの全てとノンコアワクチンのレプトスピラ以外が含まれている。
コアワクチンは必ず打った方がいいし、ノンコアワクチンの2種も比較的頻度が高いため、最低でも6種混合ワクチンをおすすめしている。
ネズミがいないような地域で、レプトスピラに感染するリスクが低い場合は6種混合ワクチンで十分だろう。
10種混合ワクチン
10種混合ワクチンには6種混合ワクチンに加えて、レプトスピラ4種のワクチンが含まれている。
ネズミなどが多い田舎に住んでいて、レプトスピラ感染のリスクが高い人には、こちらを勧めている。
ワクチンによる副作用
ワクチンを接種することで副作用が出ることがある。
ほとんどの副作用は一時的なもので少し元気がなくなったりする程度だ。
その場合は数日様子をみればすぐ良くなる。
しかし、ごくごく稀ではあるが、アナフィラキシーショックを起こしてしまうことも考えられる。
アナフィラキシーショックが起きると最悪の場合死んでしまう。
多くの場合は接種後15分以内に発症するため、接種後15分くらいは病院で待機していた方がいいだろう。
ワクチン接種のスケジュール

いずれのワクチンも生後2ヶ月ごろから接種できる。
狂犬病ワクチンも混合ワクチンも基本的には1年に1回の接種でいいが、初年度の場合は混合ワクチンを1ヶ月間隔で3回打つ必要がある。
また、狂犬病ワクチンと混合ワクチンの間隔も1ヶ月くらいは開けた方がいい。
まとめ
- 犬に必要なワクチンには狂犬病ワクチンと混合ワクチンがある
- 狂犬病ワクチンは法律で1年に1回の接種が義務付けられている
- 混合ワクチンも1年に1回の望ましい
- 混合ワクチンは6種か10種がおすすめ。犬を飼っている環境に合わせて決めるといい。
参考文献
- 動物の感染症 第三版 近代出版
- 獣医公衆衛生学Ⅰ 文永堂出版
- 獣医公衆衛生学Ⅱ 文永堂出版
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